目的 NPO法人ISAPHでは、ラオス中部のカムアン県で乳児死亡の多発地域があることを認め、その原因の多くがサイアミン欠乏によると示唆されたため、これを確かめるために栄養を中心とした世帯調査を行うとともに母親の血中および母乳中サイアミン濃度の測定を行った。 方法 対象に2005年度の乳児死亡率が最も高かったシーブンファン地区(I群)および最も低かったハートカムヒエン地区(II群)を選び、それぞれの地区から1歳未満児のいる25世帯を無作為に抽出し、計50世帯に質問票によるインタビュー、体重測定および母親の血液と母乳を採取した。 結果 I群のエスニックグループは、Lao Lum(44%)とLao Theung(56%)であったが、II群ではすべてLao Lumであった。一般に、I群では家計収入源や食糧確保など経済状態がII群に比べて劣り、また、母親の教育レベルもI群の方が低かった。サイアミンの流出をきたす主食のもち米の調理法やサイアミネースの摂取について両群間に差はなかったが、妊娠・出産にともなう食禁忌の対象となる食品数の割合はI群に高かった。また、I群では最近までの子どもの死亡率が高く、その多くは乳児脚気の症状や所見に一致していた。乳児栄養については、両群ともに乳児期早期に母乳以外の食物を与えるなど不適切な点が多かった。サイアミン濃度の測定の結果、両群ともに血中および母乳中のサイアミン濃度は低く、とくにI群がII群に比べて低かった。 結論 乳児死亡の多発地区における母親の血中サイアミン濃度はかなり低値であり、また乳児死亡の主要な原因の1つとして乳児脚気によるものと考えられた。ラオスでは、主食の米の調理法、妊娠・出産にともなう食禁忌、サイアミネースを含む食品の摂取などで、サイアミン欠乏が広く蔓延していることが推測される。乳児脚気による死亡を防ぐために、関係機関との情報交換をはじめとして、ビタミンB1サプリメントの投与、栄養指導など早急な対策が必要である。