目的 アジア地域は世界でもっとも急速に高齢化が進んでおり、WHOは、今後45年間に60歳以上の人口が現在の3倍に達すると予測している。タイ国では、2001年以降、ヘルスプロモーション理念に沿って、高齢者の潜在力を生かしながら、高齢者にとって住みやすい地域づくりを目指した政策が実施されている。その一環として、タイ伝統医療を再評価し、近代医療システムへの融合を図るとともに、高齢者が主体的に参加できるようなプログラムを実施している。 タイ国の高齢者の保健医療については様々な分野で研究されてきたが、高齢者を対象とした伝統的健康行動に関する研究は緒についたところである。そこで、タイ国東北部の2村の高齢者を対象に健康維持・増進、疾病時の対処に関する伝統的健康行動を比較検討した。 方法 タイ国東北部の都市部近郊と地方部の2村を対象に参与観察によって村の概要を把握し、その後、60歳以上の住民、25人と18人に対して半構造化質問票を用いて、伝統的健康行動について聞き取り調査を実施し、インタビューガイドに沿って比較分析した。 結果 両村とも年収は全国平均の半分以下であり、地方部の住民は半数以上の高齢者世帯が親族からの送金で、都市近郊の住民は三世代が同居し、農閑期の農業外収入を主なる収入源として生活を営んでいた。 薬草は、両村とも大多数の住民が家屋敷地内に栽培、または自然繁殖させていたが、薬草を煎じて常用したり、食材を「熱い」、「冷たい」と認識し、健康を意識した食生活及び清潔行動は地方部の住民が熱心に実践していた。さらに、タイマッサージの利用者の割合は、村内で無料で利用できる機会のある、地方部の方が多かったが、都市近郊部では有料で、しかも、物理的に離れた地域のマッサージを利用していた。 結論 研究対象の2村は、タイ国内では所得指数で貧困地域として位置づけられている。両村間の距離は20キロであるが、使用している薬草や伝統的健康行動に差異が見られた。また、慢性疾患罹患の割合が少ない地方部では、都市近郊に比較して伝統的理念に基づいた日常生活を営んでいた。