緒言 インドネシア共和国は我が国の政治経済の重要なパートナーであり、保健分野に関しても多くの日本人が関心を持っている。しかしながら、インドネシアの保健医療に関する情報収集は日本では容易でないことから、筆者が聞き取りや公表されている資料によって収集した情報を可能な限り共有したく、私見も交えながら執筆した。 概況 インドネシアは、過去には中央政府主導による保健医療行政システムの整備により、インドネシアの健康水準の改善を図ってきた。しかしながら、1997年のアジア経済危機や2001年1月からの急速な地方分権化政策により保健医療行政システムや人材育成、コミュニティー参加の機能に影響し、様々な医療サービスの地域間格差を広げた。 保健行政システム 2007年の予算の執行率は80%を超えているが、会計年度前半の執行は20%のみであった。社会保障として、2008年から公衆衛生保障基金(JAMKESMAS)が始まり、無料診療を受ける国民が増加している。保健医療施設は、中央または地方政府運営の病院や保健所(Puskesmas)に加えて、コミュニティーが運営する統合保健ポスト(Posyandu)などがあるが、その機能の改善が課題となっている。 保健指標 2007年の0歳時平均余命は70.5歳で、母子保健指標は近年改善が見られるが周辺国と比較すると悪い。また、HIVや鳥インフルエンザの感染者は増加傾向にあり、特に鳥インフルエンザは世界で最も発症例も死亡例も多い。 保健政策 「保健省戦略的計画(RENSTRA DEPKES 2005-2009)」が保健政策の中心となっているが、特に地方政府での計画評価能力や報告順守に問題があり、計画策定能力に課題を残している。疾病別では母子保健や感染症が重要課題で、さらに、現保健大臣は健康な生活のための社会動員とコミュニティー強化を達成することを目標にDesa Siaga (Desa = village, Siaga = prepared / alert)プログラムを最優先政策としている。 結語 インドネシアは経済危機や急速な地方分権化の影響を受け、保健指標は必ずしも満足に改善していない。地方政府での計画策定能力の問題に加え、コミュニティーが運営してきた保健施設の弱体化が課題で、これらの再強化が政策の中心となっている。また、増え続ける鳥インフルエンザやHIVなどの感染症や母子保健が優先課題となっている