背景 昨今の国際保健領域では、保健システム強化に関心が集まっている。その背後に、国連ミレニアム開発目標の達成や貧困削減のための持続的かつ効果的な保健活動の進展に、保健システムの強化が不可欠との認識の高まりがある。世界保健機関(WHO)は世界保健報告2000を刊行して以来、保健システム強化に精力的に取り組んでいる。 保健システム強化の進展 本稿は、世界保健報告2000の公表と、その反響へのフォロー、および世界保健報告2003発行以降の本格的な保健システム強化の国際的動向を3期に分け、WHO公式文書等の文献を使い概観する。とくに2003年以降の進展を政策、実践、科学的方法の3方面から詳述する。政策面では、プライマリ・ヘルス・ケアの原則に沿って保健システム強化を図る方針が立てられ、国際援助機関の参与が促されている経緯を述べる。実践面では、人材育成と、世界基金からの財政支援に関する具体的取り組みを解説する。科学的方法面では、WHOによる保健システムのフレームワークづくり、システム科学に基づくヘルスリサーチの進展、および保健情報システム強化の取り組みの事例を紹介する。 結論 感染症、救急ケア、慢性疾患等の縦型プログラムの効果を高めるには、横断的基盤としての保健システム強化は国際保健上の喫緊の課題である。保健システム強化支援に関するわが国の基本戦略を明確化し、2国間援助やNGOのプロジェクトに保健システム強化を具体化するコンポーネントを挿入する試みが必要と思われる。