目的 これまで独立行政法人国際協力機構(JICA)の研修は日本国内で多く実施されているが、研修のモニタリング・評価は、研修中および終了時のアンケート調査が主体となっている。本研究の目的は、研修の質を向上させる一手段として、研修実施機関が研修中に、研修生の発言や質問事項を経時的に記録・分析する意義を明らかにすることである。 国立国際医療研究センター国際医療協力部(NCGM)は、2009年に実施したJICA地域別研修「アフリカ地域(仏語圏)母子保健」に対し、研修中の詳細なモニタリングおよび研修終了時自己評価を試みた。なお、本研修のキーワードは、「継続ケア」であり、研修生は「保健システムとしての継続ケア」と「個人としての継続ケア」の両方の視点を併せ持つことが期待された。 方法 五週間の研修期間中、研修生の質問内容および発言内容を連日記録し、同日中に研修実施者間でその記録を分析した。さらに、研修前期・中期・後期にわたる発言内容をテーマごとに分類し、経時的変化を追った。 結果 研修生の発言や質問事項を毎日記録分析することで、研修実施側は、研修生の好奇心や思いつきからの一時的な発言と、根本的な関心事やキーメッセージの理解度を表す発言との明確な区別が可能となった。その結果は、当初の研修日程には入れていなかったテーマでのディスカッションの導入や、講義内容の微調整として反映された。継続ケアに関する研修生の発言・考え方には、研修の前後で、明らかな変化が認められた。ラボラトリー方式による体験学習は、研修実施側が予期した以上に広く深く、研修生に影響を与えていた。研修終了時に研修生が策定した活動計画案は、すでに存在している仕組みの現状を分析し、関係者の有機的な連携を目指すことによって、個人としての継続ケアおよび保健システムとしての継続ケアを実現させるものであり、研修実施側の期待する成果と一致したものであった。 結論 研修生の発言や質問事項を毎日詳細に記録して経時的に追跡することは、モニタリングに有効であった。また、研修終了後に記録を分析することにより、研修が研修生に与えた短期インパクトが明らかになった。これは研修実施側にとって、研修終了時自己評価方法として有効であった。今後は、元研修生の職場を定期的に訪問して研修の中長期モニタリングと評価を行い、その結果を国内研修の内容改善に反映させる予定である。