緒言 近年、日本国内の外国人登録者数は増加傾向にあり、日本で定住し、婚姻、出産する例も増えてきている。同時に、母子保健医療においても多様なニーズが生じ、日常の診療の現場に負担を課してきている。 今回、在日外国人母子保健医療の現状を明らかにし、在日外国人への保健医療サービスを改善する目的で質問票調査を行った。 方法 研究班にて開発した自記式質問票を、群馬県医師会、小児科医会登録(2003年の調査当時)の小児科医・小児科標榜医の計299名に郵送・回収した。調査期間は2003年10月6日―11月3日である。 結果 回収率56.5%であり、有効回答数は167通であった。在日外国人の診療経験があるのは155名であった。 「言葉の面で困った経験」に関し、「よくある」、「たまにある」の回答が全体の75%(117名)を占めていた。対応としては、「身振り手振りや筆談で対応する(68.3% 106名)」、「来院者に通訳可能な知人を同伴してもらう(67.1% 104名)」の二つが主たるものであった。 通訳の必要性に関する質問に対し、「絶対に必要」「レベルの高い通訳なら必要」の二つの回答で全体の119名(76.8%)を占めており、通訳に求める能力に関しては、「診断、治療方針、投薬内容などの正確な通訳」「患者さんの病歴の細かな聴取通訳」等のニーズが高かった。 「外国語の母子健康手帳の使用経験」では、「使用経験なし」の回答が82名(52.9%)存在した。 考察 医療通訳と診療支援ツールに関するニーズが明らかになった。 医療通訳に関しては、質の高い通訳が求められていた。このような医療通訳システムの実現には、(1) 基本的医学的知識の研修教育等を受けた医療通訳専門職業者の養成、(2) 既に医療現場において通訳を行っている外国人に教育研修実施による即戦力養成、の二つの戦略が有効であると考えられた。政策的には、自治体ベースでの資格授与スキームが考えられる。 診療支援ツールに関しては、今後以下の3点に留意し開発することが望ましい。(1) 外国語/日本語併記、(2) イラスト等の利用、(3) サービス提供者が高齢者である場合を配慮した見やすいもの。具体的な内容としては、(1) Common Diseaseに関する診断名、病状経過、治療方針の説明、(2) 発熱時の対応等症状に対する対処法の説明、(3) 保険支払いシステム、各種福祉サービス等に関する説明等を含んでいることが望ましいと考えられた。政策的には、既存ツールの改善提供、外国人集住地域間の情報交換の促進等が考えられた。