国際保健医療政策は国際政治経済による影響を大きく受けて成立ないし変遷してきた。例えば、プライマリヘルスケア戦略は途上国主権や人権の高まりを背景に成立したが、その理念は新古典派経済学理論に基づく構造調整により大きく後退させられた。小児期疾病統合管理政策(IMCI)は世界銀行による経済的評価の上に開発された。途上国における小児の栄養失調は、政治的に不平等な食糧配分や多国籍フード企業の戦略的販売の圧力によって、その改善が阻害されている。抗HIV治療薬の普及は、製造·販売に関する知的所有権をめぐり多国籍製薬企業と途上国との間の政治経済的攻防に大きく制約されている。タバコ企業の営業戦略に抗して、世界保健機関のタバコ規制枠組み条約は成立した。本稿は、国際金融機関や多国籍企業の動向が、主要な国際保健医療政策の成立と発展過程に及ぼす影響を検討し、国際保健医療に対する国際政治経済的課題を考察する。