目的 エジプトでは、1990年代初に基本的保健医療サービスへのアクセスが向上し、保健指標は著しく改善してきた。しかし、地域格差はなお大きく、保健医療システムにも多くの問題があった。保健医療サービス提供の、公平性、効率性、質、持続可能性確保を目指して、1997年から保健医療セクター改革プログラム(Health Sector Reform Program: HSRP)が開始された。本稿では、エジプトで実施されたHSRPについて、報告書などの資料をもとにまとめ、その成果と問題点について考察する。 方法 国際機関などが刊行した保健医療セクター改革に関する報告書、統計資料などをもとに検討した。 結果 HSRPの目標は、医療サービスの質の向上と公平なアクセス確保、持続可能な保健医療財政制度の策定などであり、とくに、プライマリ·ヘルス·ケアが重視された。医療サービス、医療財政、評価という3つの側面からプログラムが組み立てられ、パイロット5県で開始された。Family Health Model (FHM)では、家族単位で特定の医師·医療施設に登録し、Basic Benefits Package (BBP)とよばれる基本的医療サービスを提供した。医療費支払機関として、新たにFamily Health Fund (FHF)が設立された。しかし、保険基金としては十分機能せず、一次拠出金をプールして医療従事者にインセンティブを提供する役割に留まり、財政的持続可能性は乏しかった。また、医療施設の認定と、インセンティブを伴うパフォーマンス評価からなる医療サービス評価が行われ、医療サービスの質が確保されるようになった。その他、医療従事者の教育プログラム強化、地方の医療施設の設備·機材の改善、リファラルシステムの向上なども実施された。 結論 エジプトで実施されたHSRPは、家族単位での登録システムを初めてパイロット県に導入し、基本的医療サービス提供に重点をおいて、公平性、効率性、質の向上を、ある程度達成することができた。しかし、持続可能な医療保険制度を確立することや、民間医療提供者に一定の役割をはたしてもらう段階には、及ばなかった。今後は、エジプト政府全体のコミットメントを引き出し、国民全体に質のよい保健医療が保障される仕組みを形成していくことが必要とされる。