目的 本研究は、米国でプロフェッショナルの医療通訳士が誕生し発展した過程を分析することを目的とした。その成果は、医療通訳士育成の途上にある日本に大きな示唆を与えると期待される。 方法 世界最古の医療通訳士団体、The Massachusetts Medical Interpreters Association (MMIA)の創設者と初期メンバーを対象とし、医療通訳士が誕生した経緯や課題および発展過程について聞き取り調査を実施した。逐語録を作成し、テーマ分析を行った。調査対象者から提供された資料も参照し、1970年代創始期から通訳法が制定された2000年までの発展過程を分析した。 結果 院内通訳士が希少であった1986年当時、マサチューセッツ州ボストン市に通訳士の集まるグループが結成された。最初は、通訳が困難な事例などを語り合う会合であったが、医療通訳士の団体に発展し、共通の課題を討議するようになった。役割を明確にするため、行動規範を定めた。地位向上と雇用機会の増大を目指し、州法制定のため利害関係者(ステークホールダー)と協働した。聞き取り調査対象者8名の内6名は、病院で雇用された当初からプロフェッショナルの研修講師として後進を指導し、会議に参加してネットワークを拡大した。州政府は、医療通訳士養成研修に対して支援金を提供し、病院に対し指針を出して指導した。 結論 医療通訳士という職業を定着させるには、医療通訳士が団体を結成し、地位確立を目的とした活動に取り組むことが不可欠であった。創始期の医療通訳士は、職能団体を結成し、各種規範を出版し、利害関係者への働きかけを行い、プロフェッショナルの研修講師として外部団体の研修コースで後進を教育し、発展の過程で重要な役割を果たした。彼らが多様な利害関係者と協働したことが、発展を促進した。また、医療通訳関連の会議が開催され、利害関係者間のネットワークが拡大したことも発展を促進した。調査対象者は、研修コースの欠如、医師との関係、ストレスコントロールに苦慮していた。日本で実施された調査では、研修コースの不足、医療者や患者の理解不足、精神的支援の欠如が課題であると報告されている。これらの共通性から、本研究の結果は、日本における医療通訳の発展を考える上で教訓になると考察した。