目的 女性性器切除(FGM : female genital mutilation)はアフリカを中心に現在でも社会的慣習として広く行われており、瘢痕からの分娩時出血などによる妊産婦死亡の危険性増加やリプロダクティブヘルスの低下要因になることから、MDGsにある「妊産婦の健康の改善」の弊害要因の一つである。また、精神的観点からは女性へのバイオレンスとして捉えることができる。そこで、本研究では、公表されている保健統計を用いてアフリカ諸国のFGM実施率の状況や最近の動向を分析し把握することを目的とした。 方法 WHOの報告書「Eliminating female genital mutilation」FGMの実施が報告されている28ヶ国のうち、2002年以降に最新のDemographic and Health Survey (DHS)が英語で公表されているアフリカの国で、直近の年のDHSと概ね10年前のDHSとの比較が可能な国(タンザニア、ナイジェリア、エチオピア、エリトリア、ケニア、エジプトの6ヶ国)のDHSを対象とし、データを比較した。 結果 ナイジェリアを除く5ヶ国ではFGM実施率は低下傾向にあり、都市部よりも農村部の方のFGM実施率が高かった。これらの国では、若年層ほど減少が大きい傾向がみられた。ナイジェリアのFGM実施率は、農村部より都市部で高く、教育レベルが低い女性のFGM実施率が低いなど、近代化とFGM実施率には必ずしも関連は見られなかった。また、同じ国でも地域や民族による実施率の差異が大きく、地域での社会的文化的慣習としての根深さも示唆された。 結論 多くの国において、直近の報告での若年者でのFGM実施率が低下しており、実施率は将来さらに減少傾向になると予想された。今後母親となる若年者への健康教育やコミュニティーへのアプローチがFGMの更なる減少に効果的であると予想された。しかしながら、実施率の傾向は国によっては特徴的であり、その対策には社会的・文化的な根深い要因を考慮すべきであると示唆された。