人はしばしば,自己の主観的な状態が他者に対して露わになったと信じる傾向があり,これは透明性錯覚として知られている。本研究では,自己紹介場面での緊張においてこの透明性錯覚が重要な役割を果たし,また感じている緊張の関数として透明性推測が作り出される,という仮説を検討した。人前で話す時に緊張を強く感じる人は,そうでない人に比べて,聴衆に対してその緊張が明らかなものとして伝わったと信じる程度が強かった(研究1)。対人不安特性の強い人においても同様のことが示唆された(研究2)。研究3では,これらの結果を再現し,さらに動機的説明ではうまく行かないことを立証した。最後にこれらの結果に対して,透明性錯覚と係留・調整リューリスティックスの観点から議論が加えられた。