本論文は,環境,医療,防災,福祉,土木など多くの分野で,専門家と非専門家(一般の人びと)との間の「対話」が重要視されている現状を踏まえ,新たな対話形態として「終わらない対話」というあり方を提示しようとするものである。まず,「終わらない対話」を実現しようとした具体的な試みとして,矢守・吉川・網代(2005)が開発した「クロスロード」と呼ばれるゲーミング技法について紹介した。次に,歴史的な意味でも論理的な意味でも,「終わらない対話」に先行する対話形式として位置づけることができる「真理へと至る対話」,「合意へと至る対話」の2つに言及し,これら2つの対話形式との異同を通じて「終わらない対話」の性質を明確化した。さらに,「クロスロード」を活用した防災実践活動における対話の特徴をルーマンのリスク論に依拠して考察し,「クロスロード」が「終わらない対話」に結びつく根拠を理論的に示した。最後に,「クロスロード」は,「終わらない対話」のみならず,上述の3つの対話形式をすべて包含した重層的な対話メディアであり,専門家と非専門家との対話には,今後,こうした重層的なメディアやアプローチが不可欠であることを指摘した。