本研究は,高等学校と地域社会において,ゲーミング手法を活用して実施した防災学習実践(アクション・リサーチ)について報告したものである。まず第1に,学習という営為について,Lave & Wenger(1991)らが提唱した学習論(実践共同体学習論)に依拠して整理した。第2に,今日の防災学習をとりまく課題を指摘し,Laveらの学習論はそれらの課題にとり組むとき,有力な指針を与えることを指摘した。第3に,以上を踏まえて,防災学習にゲーミングの手法が有効だと考えうる根拠を,Duke(1974)のゲーミング論をもとにして明らかにした。次に,以上の議論にもとづいて,1年あまりにわたって実施した防災学習のアクション・リサーチについて,その内容と経過を報告した。具体的には,高校生と関係者の協働によって,非常持ち出し品をテーマとした防災ゲームが成果物として完成し,その後,それが地域社会における防災教育のためのツールとして活用されている実態について述べた。最後に,以上の成果を総括し,当初受動的な学習者でしかなかった高校生が,本プロジェクトによって防災に関する実践共同体の有力メンバーとして参加するなど,実践共同体の構造に大きな変化が生じたこと,さらに,こうした共同体の柔軟な構造変容を伴った学習こそが,海溝型地震など周期の長い自然災害を対象とした防災実践には要請されていることを指摘した。