人が複数の関係間で帳尻を合わせるように行動するという「世界に対する衡平(Equity with the World; EwW)」仮説を検討するため,大学生161名を対象とした実験を行った。研究では特に個人内要因の影響に着目し,向社会的規範を指示する程度としての「援助規範意識」と,出来事の肯定的評価と関連する「正当世界信念(Belief in a Just World; BJW)」を取り上げた。実験において参加者は2度の報酬分配状況に置かれ,一度目では実験操作として過大,過少,衡平のいずれかの報酬を受け取った。その後,参加者は分配者として第三者に報酬を分配するよう求められた。結果はEwW仮説から予測される行動と概ね一致していたが,援助規範意識の高い個人は過去に過少な分配が行われても,第三者を通して不衡平を回復しなかった。参加者の行動と情動を比較すれば,BJWの高い個人は過去の不衡平にネガティブな情動を感じにくいために,第三者に衡平な分配を行うことが可能だと解釈できる。一方,援助規範意識の高い個人は第三者に衡平に分配することでより満足を感じており,個人内要因ごとに異なるプロセスが示唆された。これらの結果から,人々がどんな条件においても単純にEwW回復行動を見せるわけではないことが示された。