本研究は,社会的迷惑行為および逸脱行為といった反社会的行動に及ぼす自己制御の影響過程について,脳科学的基盤が仮定されている気質レベルの自己制御と,成長の過程で獲得された能力レベルの自己制御の2側面に着目し,気質と能力の因果関係を含めた包括的モデルの検討を行った。対象者は高校生・大学生の計641名であり,自己制御の気質レベルはBIS/BAS・EC尺度を,能力レベルは社会的自己制御(SSR)尺度を用いた。分析の結果,次の知見が得られた。(1)SSRの自己主張的側面はBIS/BAS,ECからの直接効果が示されたのに対し,自己抑制的側面はECからの直接効果のみが示された。(2)気質レベルよりも能力レベルの自己制御の方が,反社会的行動により強く影響を及ぼすことが示された。(3)社会的迷惑行為と逸脱行為とでは気質レベルの自己制御からの直接効果に差異が示され,前者はEC,BASからの直接効果,後者はBIS/BASからの直接効果が示された。(4)能力レベルの自己制御と逸脱行為との関連については,自己抑制と自己主張の交互作用的影響が認められ,自己抑制能力を身につけずに自己主張能力のみを身につけると,他者を配慮せずに自己中心的な行動を行う自己主張能力として歪んだ形で現われるために,逸脱行為に結びつきやすい傾向が示された。以上の結果に基づき,反社会的行動に及ぼす自己制御の影響過程,社会的迷惑行為と逸脱行為との相違点および共通点について議論した。