本研究は,侵害者が行う謝罪に対して,実際の被害者と,被害の観察者とが異なる反応を示すという傾向を検討した。特に,謝罪によってもたらされる「許し」の動機づけと,さらにその規定因となる責任帰属や情緒的共感といった変数に注目し,被害者と観察者の謝罪に対する反応の差異を検討した。大学生136名に対して,被害者/観察者の視点を操作した被害場面シナリオ,及び侵害者による自発性を操作した謝罪シナリオを段階的に提示し,各段階で侵害者への反応を測定した。その結果,「許し」の動機づけに関しては,視点と謝罪タイプの交互作用が見られ,非自発的な謝罪は,観察者のみに対して「許し」の促進効果を持っていた。さらに,謝罪が「許し」を規定する媒介過程においても,視点間の非対称性が示された。観察者においては,謝罪は責任判断と情緒的共感の両者の変数と介して「許し」を規定していたのに対して,被害者においては,情緒共感のみがそのような役割を担っていた。以上の結果から,対人葛藤場面においては,その被害者と観察者の判断を動機づける要因が異なることが示唆される。