社会的アイデンティティ形成の相互モデル(Postmes et al., 2006)が提唱されて以来,近年の集団アイデンティティ研究ではマルチレベルの視点がとられている。しかし,集団レベルの集団アイデンティティの操作的定義は統一されていない。さらに,集団レベルにおける集団アイデンティティの意味するところも明らかにされていない。本研究の目的は,二段抽出モデルによって,(1)Swaab et al.(2008)と尾関・吉田(2009)の2つの操作的定義を比較する (2)集団アイデンティティの下位尺度である成員性と誇りの相違を,個人レベルと集団レベルの両方で明らかにすることを目的とする。358人の大学生(男性161名,女性190名,不明7名)が,所属学科に対する集団アイデンティティ,当該学科の集団実体性,内集団価値(Leach et al., 2008)を評定した。また,Swaab et al.(2008)の操作的定義である,所属学科のメンバーが,どのくらい当該学科に対する集団アイデンティティを共有していると思うかを評定した。集団レベルでは成員性が集団実体性を媒介して集団アイデンティティの共有につながっていた。しかし,個人レベルでは,成員性の強い成員ほど集団実体性が高く,成員が集団アイデンティティを強く共有していると思うことが示された。個人レベルのモデルからは,知覚された内集団価値が誇りを高め,成員性につながることが示された。また,集団レベルでは,内集団価値が誇りに影響していた。以上の結果と社会的アイデンティティ形成の相互作用モデルを統合し,本研究では新たにマルチレベルでとらえた集団アイデンティティを通じた集団化過程モデルを提唱した。