本研究の主要目的は, 被面接者がよりリラックスして話すことのできる状況をつくるには面接者がいかなる姿勢をとればよいかを, non-verbal behaviorの側面から考察することであった. その結果として, 面接者が後傾姿勢をとるよりも前傾姿勢をとる場合の方が被面接者の緊張度が低く, この傾向は, 被面接者の性別によって変動はみられないことが明らかにされた. しかし, この命題をそのままの形で臨床に適用することは尚早であり, 今後一層の検討を要するであろう. すなわち, 実験面接と臨床面接とでは, その状況のもつdynamicsも自ら異なり, 面接者と被面接者とのinteractionの過程にも大きな相違が予想されるからである. そのうえ仮説Aを検証するための本実験結果は, わずかに4分間の実験からえられたものであることも忘れてはならない. にもかかわらず, Haase & Tepperが, 共感をはかるには適度のE.C., 前傾姿勢, 近接距離が有効であると報告しているところと符合する実験結果を見出しており, このことからnon-verbal communicationの臨床場面での効用ならびに治療効果への貢献はきわめて大きいと考えられる. 次に, 被面接者の地位に対する緊張度についての結果は, 面接者が高地位である場合に緊張が強まるであろうという仮説Bを支持するにはいたらなかった. さらに, 女性は面接者が高地位者である場合より同等の地位にある者である場合の方が, 一層緊張が強まるという結果が得られたのに対し, 男性の場合には有意な結果は認められなかった. 本実験では, 面接者が男性に限られていたため, 女性を面接者にした場合についての資料が得られていない. 今後, 女性の面接者を用いて同様の実験をするならば, 面接者と被面接者の性の異同と地位の交互作用と緊張との間の関係が明らかにされていくるものと考えられる.