本研究は対人認知場において, “事象” Xを含むPOX関係としてとらえられる事象系と, “人” Qを含むPOQ関係としてとらえられる対人系とにおいて, その対人認知機制の特質を均衡論的立場から比較考察した. 均衡の測定は快-不快の次元によって行なわれた. 結果は次の通りであった. POX構造では, PXとOXとが同符号で同強度であるagreement構造がもっとも快に評定されるというagreement効果がみいだされた. 一方, POQ構造では, Priceによるbalance, im-balance, nonbalanceの3分法, Rodriguesによるagreementの主張と異り, 本実験ではPO関係が+, -のいずれの場合においても, PQ, OQ関係符号がともに (++) のpositive agreement構造のとき, もっとも快に評定され, 両者がともに (--) のnegativeagreement構造においては (+-), (-+) のdisagree-ment構造よりむしろ不快に評定されるというpositiveagreement効果がみいだされた. このことは, POXとしてとらえられる事象系においては, 認知者Pと他者Oとが事象Xに対してもつ“態度の類似性, ”すなわち, agreement要因の規定性がより強く, これに対し, まさに “人” についての認知としての対人系, POQのときには, 単なる態度の類似性のみでなく, それが “好意的” 内容であるということのもつ意味の重要性, すなわち, positivity要因の規定性がより顕出してくると考察された.