説得的コミュニケーションの受け手あるいは送り手としての児童を対象とした説得の研究について展望した。 まず第1に, 児童が説得的コミュニケーションの「受け手」として扱われている研究を展望した。先行研究の特徴と問題点に関して, 1) 説得話題, 2) 統制群法, 3) メッセージ, 4) 受け手の年齢, 5) 受け手の性差と個人差, 6) コミュニケーター, 7) 媒体, 8) 説得効果の測度, 9) 説得効果とモデリング効果, といった要因を取り上げ考察した。その結果, 特に, 3) メッセージの要因に関して, リアクタンスを生起させるようなアピールの説得効果は小さいが, 強い恐怖を喚起するアピールの説得効果は大きいということが示された。一方, 他の要因に関しては, 特筆すべき傾向は見られなかった。 第2に児童が説得的コミュニケーションの「送り手」として扱われている研究について展望した。この範疇の研究のほとんどが, 児童の説得的メッセージの生成能力における発達を明らかにすることを目的としている。そこで, 児童の1) 年齢, 2) コミュニケーション能力, 3) 他の諸要因について, 児童が生成したメッセージとの関連を考察した。その結果, 主要な従属変数である生成されたメッセージの多様性は児童の年齢と関連があり, この関連性はしばしば児童の立場推測能力の視点から議論された。また, 仮想法の使用に関する限界が指摘された。 最後に, 1) 受け手の研究に関しては, 説得自体は児童の態度あるいは行動の変容に対して効果的な手法だといえるが, さらに体系的な研究が求められる現状にある, 2) 送り手の研究に関しては, 今後の研究においては, 生成されたメッセージの多様性とメッセージの選択・使用とを別個に検討する必要がある, と概括した。