原理的に, 他者の過去の心理的な状態は不可知なものである。本論文では, 我々が対話においてどのようにして他者の過去の心理的な状態を理解するのか, が論じられた。日常的な雑談と, 公判廷における対話が分析の対象となった。プロトコル分析の結果, 雑談においては, 他者の過去の心理的な状態は「了解する」という仕方で理解を試みられていることが明らかになった。それとは対照的に, 公判廷においては, 「検証する」という仕方で理解を試みられていることがわかった。しかし, この「検証する」という活動は, 時として, 他者が過去を想起することを妨害し, また, 想起された過去の存在を無化するように働く場合もあることが示唆された。