本研究は, 人々の昭和57年長崎大水害をめぐる災害イメージについて, その特徴を検討したものである。具体的には, まず, 災害イメージについての基本的な考察をし, 災害イメージの基底的なタクソノミー-「事象」 「事態」-を提示した。前者は災害の知覚現場を基盤にしており, 後者は抽象的な概念体系をその存立根拠としている。そして, それに基づいて, 今なお強固に災害イメージを保持していると考えられる長崎市在住の4つのグループ (行政 (市役所), 市民団体M会, A自治会, B自治会) の, 長崎大水害をめぐる会話を分析した。その結果, 行政とM会は長崎大水害を事態化していること, 一方, A, B両自治会は事象化していることを明らかにし, さらに, 各グループの災害イメージの内実的特徴を別出した。最後に, 災害イメージを形成することの意味を明らかにし, そのことが 「防災意識の風化」と呼ばれる現象に対してもつ含意を考察した。災害イメージを長期にわたって維持するには, 単に 「事象化」するだけでも (A, B自治会) 単に 「事態化」するだけでも (行政) 不十分であり, 両者をリンクさせた形で災害イメージを形成することが必要であることが明らかになった。