本稿では, 脅威アピールの説得効果を7つの要因から説明しようとするRogers (1983) の防護動機理論 (PMT) に基づいて脅威アピール研究を展望した。最初に, 明確な形で述べられてこなかったPMTの仮説を整理した上で, PMTの理論検討に必要な4つの作業仮説を提案した。その4つの仮説に基づき先行研究を整理した結果, 次のことが見いだされた。1) 脅威事象の深刻さ, 生起確率, 対処行動の効果性, 自己効力の各アピール成分は, ある程度独立して受け手の認知に影響を及ぼす。2) 深刻さ認知, 生起確率認知, 対処行動の効果性認知, 自己効力認知の増加は説得効果を促進し, 反応コスト認知の増加は説得効果を抑制する。ただし, 3) 対処評価を構成する要因 (特に対処行動の効果性) が低く認知される場合, 脅威評価を構成する要因 (深刻さ, 生起確率) の増加は説得効果をもたないか, あるいは説得効果を抑制することがある。4) 恐怖感情に比べて認知的要因の方が説得効果をより説明する。 最後に, 1) 反応コストおよび報酬が脅威アピール効果に及ぼす影響の検討, 2) PMTの設定する要因の概念的な整理, の2点が将来の研究課題として残されていることを指摘した。