抑鬱とムードが社会的比較に及ぼす効果を見出し, その後の研究に大きな影響を与えたものとしてGibbons (1986) がある。本研究は, 大学生に対して2つの実験を行い, 彼の見出した効果などを再検討したものである。実験1では, 彼とほぼ同様のムード導入の手続き (自己開示記述法) を用いて, 彼の結果が再現されるかどうかを検討した。その結果, ムードの効果は有意でなかったが, 抑鬱者が非抑鬱者よりも下方比較を行うことが示され, 彼の結果が部分的に追証された。実験2では, 彼とは異なる手続き (偽りのフィードバック法) を用いて, 実験1と同様の効果を検討した。その結果, 抑鬱の効果は有意でないこと, また, ネガティブムード群の被験者がポジティブムード群の被験者よりも上方比較を行うことが示された。これは, 彼の結果と全く異なるものである。また, 2つの実験を通じて, 抑鬱者において, 場合により, 下方比較とポジティブな自己認知の間に相関があることが見出された。以上の結果に基づいて, 彼の結果の一般性と妥当性を議論した。