立位で行う作業の負担評価のためのインピーダンス測定法について検討した.この方法は,下腿の電気的インピーダンスの変化を測定することによりその腫脹のレベルを評価するという方法である.本報告では,まず,他の下腿腫脹測定法との比較および測定条件の検討を生体電気的な数学モデルで行った.さらに得られた測定条件に基づいて実際に被験者に3種類の立位負荷を与えてインピーダンスを測定し,その妥当性を検討した.まず,下腿体積測定法・下腿周囲長測定法・インピーダンス測定法の3種類の測定法を,円柱導電体とみなした下腿の腫張が断面半径の変化で示されるとした理論モデルにより比較検討した.その結果,インピーダンス法により測定される下腿腫脹の変化率は,下腿体積測定法とは同じであるが,下腿周囲長測定法と比べると2倍の変化率を示すことがわかった.測定条件については生体組織の電気的等価回路を用いて解析を行った.その結果,インピーダンスの測定周波数は低いほうが高い場合よりも4倍程度大きな変化率を示すことが判明した.従って,低周波でのインピーダンス測定法を用いれば,他の下腿腫脹評価法よりも高い検出力で下腿腫脹を測定しうることが判明した.次に, 10名の男性被験者に対し, (1)安静直立(30分間), (2)運動(1分間)と直立(9分間)の3回繰り返し, (3)連続歩行(速度1 m/sで120分間)の3種類の立位負荷を与え,右下腿のインピーダンス・下腿周囲長・下腿の自覚的不快感を測定した.インピーダンスは,測定を自動化した装置を試作し, 4電極法により測定周波数5 KHzで測定した.安静直立では,インピーダンスは時間とともに低下するパターンを示した. 30分間でのインピーダンス変化率は6.86±4.54% (mean±SD)で,これは下腿体積測定法あるいは高い周波数での下腿インピーダンス測定法による他の論文での変化率の3-5倍となっていた.これは,生体組織の電気的等価回路によるモデル解析の結果にほぼ一致するものであり,下腿腫脹が低周波のインピーダンス測定で良好に捕らえられることが確認された.また,運動と直立の繰り返しのデータおよび連続歩行のデータより,運動や歩行でインピーダンスが上昇することが確認された.運動は下腿の筋ポンプを作動させるため腫脹を軽減させると考えられている.今回の結果はこれに合致するものであるが,文献的には逆の結果も報告されている.運動の種類や持続時間が影響する可能性もあり,その評価には更に検討を要すると考えられた.下腿の自覚的不快感については,安静直立や運動と直立の繰り返しでは,インピーダンスでとらえた下腿腫脹に応じて自覚的不快感が増加するという結果が得られた.しかし,連続歩行では下腿腫脹は減っているのにもかかわらず自覚的不快感は増大するという逆の結果となっていた.自覚的な下腿不快感は下腿腫脹のみで決まるものではないので,このような結果になったのではないかと思われた.