ヘムおよびヌクレオチド代謝に関連して,鉛曝露の生物学的モニタリングあるいは鉛中毒の鑑別に利用可能な影響指標としての生化学マーカについて検討した.デルタアミノレブリン酸脱水酵素(ALA-D),血漿中デルタアミノレブリン酸(ALA-P),尿中デルタアミノレブリン酸(ALA-U),尿中コプロポルフィリン(CP-U),赤血球プロトポルフィリンまたは亜鉛プロトポルフィリン(EPまたはZP),ピリミジン5'-ヌクレオチダーゼ(P5N),血中ピリミジンヌクレオチド(PN)などの生化学指標について,それぞれの指標の特徴,測定原理,参照値,閾値,量-影響関係,有効度, Pb-Bの適用範囲,影響因子を明らかにした. CEC法または回復法によるALA-Dに対するPb-Bの閾値は5μg/d l と低い.回復法によるALA-D残存活性率はPb-Bが5から50μg/d l の広い範囲で1.80以上の有効度を示すのに対し, ALA-D活性(CEC法)では20から50μg/d l の範囲でのみ1.80以上の有効度を示した. ALA-Pの閾値も5μg/d l と低く,クレアチニン補正したALA-Uの閾値はHPLC法で15から30μg/d l ,比色法で20から40μg/d l である. ALA-Pは30から60μg/d l のPb-Bで高い有効度(>1.8)を示すが, ALA-Uは60μg/d l でのみ高い有効度を示す. EP (ZP)およびCPが有意に増加するのはPb-Bがそれぞれ20から30μg/d l および40μg/d l からである. P5N活性の閾値は10μg/d l 以下で, 10から60μg/d l のPb-B範囲で直線的な活性低下を示し,その有効度(10μmol/h/gHbで区切った時1.86)はPb-B>40μg/d l で他の生化学指標のいずれより高くなる. PNはPb-Bが60μg/d l から増加する. ALA-U, CP-U, ZPの個体差はPNのそれより大であった. ALA-Pは測定法が簡便で,感度,特異性にも優れ,正常から中毒域までの広い範囲のPb-Bに適用可能であることから,鉛曝露の生体指標として最も望ましいものの一つといえよう. PNは中毒の評価に利用可能と考えられる.鉛の影響あるいは中毒の実体を正確につかむにはそれぞれの指標の特徴を生かし組み合わせ利用することが必要と考えられる.