近年,金属加工業や印刷業に従事している者の内,オイルミストに暴露されている作業者に,皮膚,陰嚢,呼吸器の炎症や悪性腫瘍の発生が増加している.今回, 1965年から1993年迄に報告された内外の文献158報を検索して,オイルミストの人体への障害作用を検討した.その結果疾病としては, 1.皮膚-接触皮膚炎, oil acne,光過敏性アレルギー性皮膚炎の発生. 2.陰嚢-良・悪性腫瘍の発生. 3.呼吸器系-鼻粘膜の不快感を伴う自覚症状の発現,鼻炎,鼻粘膜変性,鼻粘膜腫瘍,咽頭癌,気管支炎,リポイド肺炎,肺線維症,肺癌,喘息の発現等が認められ,発癌に関しては疫学的に暴露群で非暴露群よりも発生が多く,実験的には細胞の染色体に対して変異原性を有していた.さらに,サンプリング・許容濃度については油分濃度計など,改善と工夫がみられ,健康管理の面では職場での啓蒙活動と保護具の徹底,工程の改善などが指摘されていた.以上より,オイルミストの人体への影響は全身に及び,多彩である.病変の程度は濃度依存症であるが,今後はさらにオイルミストの各成分への人体への障害作用についての充分な研究が課題となろう.また,同じオイルミスト暴露でも,作業者の示す反応には個体差が認められることから,宿主の免疫応答に及ぼすオイルミストの影響についても幅広く検討すべきであろう.即ち,外因性有害化学物質に対する中毒免疫学の導入と応用が望まれるところである.