某大手企業の1990年度新入社員の本社配属者全員365人(男性197人,女性168人)を対象として,入社後の新入社員健診を実施した.その内容は一般の定期健診と同様で身体の健康状態を把握する項目と訴えを記録する質問票,さらに保健婦10人の面接による職場の生活の適応度,私生活パターン,性格傾向の把握であった.この健診情報の主要な統計学的解析結果として, (1)男性で高血圧項目の高得点者の外向的性格項目の高得点, (2)女性で肥満項目の高得点者の上司に対する不満と攻撃的などの性格傾向項目の高得点, (3)技術系女性の性格傾向項目の多少の高得点, (4)男女とも性格傾向項目の得点と職場の生活の適応度項目の得点との正の相関, (5)年長群において悪影響が男性では私生活に女性では職場不適応に及んだこと, (6)男女とも地方出身者の食事内容の偏り, (7)地方出身の若年層の男性の精神的緊張項目の高得点, (8)若年層の女性の意欲と依存性項目の高得点,が指摘された.その後次年度まで,心身の問題点が集積された.その結果として, (1)女性の方が男性よりも問題点が多く, (2)女性では若年層の方が年長層よりも問題点が多かった.上記二者の縦断的解析の主要結果は, (1)特に女性において新入社員健診時に保健婦たちが把握した性格傾向と職場の生活の適応度の情報によりその次年度までに彼女らに発生する心身の問題をある程度予見し得ること, (2)男性において入社時にすでに良い趣味を持っていることと不健康飲酒は次年度まで的心身の問題発生の危険因子であること,であった.したがって,新入社員健診時に性格傾向や職場の生活の適応度などの心身の情報を保健婦たちが把握することは先手必勝の観点から有意義だと指摘されよう.