ガリウムヒ素(GaAs)は半導体素子,発光ダイオード等に幅広く利用されており,今後その需要は急速に伸びていくものと思われる.本研究ではGaAsを雄ラットの気管内に反復投与し,雄性生殖系への影響について検討を行った. 12週齢の雄のWistarラットに対して7.7 mg/kgのGaAs (NMD: 1.32μm, σg: 1.76)をリン酸緩衝液(pH 6.9)に懸濁して週2回・計16回気管内に投与した.対照群に対してはリン酸緩衝液のみを同様に投与した.投与期間終了後,ラットはエーテル麻酔下で生殺し,精巣および精巣上体の重量・精子数,異常精子の出現頻度によって, GaAsの雄性生殖系への影響について評価を行った. GaAsの投与によって精巣の重量や精子数には変化は認められなかった.しかし,精巣上体においては,精巣上体重量の減少,精巣上体体尾部における精子数の減少,および異常精子出現頻度の増加を認めた.精巣上体体尾部における精子数は対照群では167.4±21.3×106であったのに対して, GaAs群では98.6±23.8×106であり,約40%の減少が認められた.また異常精子を形態から未熟精子,奇形精子,無尾精子の三つに分類して評価すると, GaAs投与群ではそれぞれで対照群と比較して27倍, 14倍, 4倍の増加が認められた.さらに形態的に未熟な精子の増加のほとんどは, straight head型の未熟精子の増加によるものであった.以上の結果から,ラットではGaAsの気管内反復投与により精子数の減少,異常精子の増加を来たすことが確認された.今後は精巣の病理組織学的評価を行い, GaAsの雄性生殖系への影響について,より詳細な検討を行う予定である.