職業性ストレスが心血管性疾患発生の危険因子の一つとして注目されている. Karasekらは仕事の意志決定度(Decision latitude: DL)と仕事の要求度(Job demand: JD)の2つの尺度を提唱し, JDが高くDLが低い集団に虚血性心疾患の発症が多いことを報告した.またJohnsonらは,これに社会的支援(Social support: SS)を加えたモデルにより, SSが低いほど心血管性疾患死亡率,有病率が高いことを示した.近年,川上らによりKarasekの考案したJob Content Questionnaire (JCQ)の日本語版が紹介されたので,これを用いて,あるコンピュータ製造企業の35-61歳の労働者の性および従業上の地位と, Karasekのモデルにより評価される職業性ストレスとの関連性を検討した.該当する労働者308人を対象としてJCQ質問票を用いた自己記入式のアンケート調査を実施した.最終的に286人から有効回答を得た(有効回答率93%).その結果,特にDL, SSにおいて,男性より女性で,また従業上の地位が低くなるほど得点が低くなり,したがってKarasekのモデルによる職業性ストレスが大であるという結果であった.対象者数も限られた今回の調査結果から断定的な結論は下せないが,従業上の地位の低い労働者の健康管理等にあたり,職業性ストレスが大きくなりがちであることと,それによる虚血性心疾患の発生にも,今後注意を払う必要のあることが示唆される.