職場におけるメンタルヘルスの研究でよく用いられる抑うつと不安について,いずれがよりよく職場問題を反映するかをアンケート調査とメンタルヘルス相談記録(診療録)の二通りの方法で比較検討を行った.アンケート対象は某大企業及び関連会社の男性従業員885人である.解析にはZungのうつ病尺度, SpielbergerのSTAIと職場問題の質問から得られた4因子得点(仕事の質,仕事の量・環境,上司,同僚の各因子)を用いた.相談記録(診療録)は同社のメンタルヘルス相談を訪れた男性84人である.アンケート調査では,抑うつ症状が不安症状(状態不安)より職場要因4因子との重相関係数が高く,相談事例でも抑うつ症状を主症状としたものが4割強を占め,不安を主症状とするもの1-2割より多かった.相談者の抑うつ症状の発症誘因は,仕事の過重が過半数を占めていた.アンケート調査では,職場要因で抑うつ症状と標準偏相関係数の高いものは,仕事の質の因子および仕事の量・環境因子であった.仕事の量・環境因子は,仕事の過重と密接に関連していると考えられ,この点でも結果に一致がみられた.職場のメンタルヘルスには,抑うつ症状を中心に考え,仕事の質や量・環境の面の配慮が重要となる.そのために第一線の管理監督者の役割が重要と考えられ,そのような役割の重要性に対する経営層の理解が不可欠と思われる.