私たちは,最大酸素摂取量(Vo2max)が循環器疾患のリスクの状態を反映しうるかを明らかにするために,Vo2maxと,循環器疾患のリスク・ファクター(年齢,収縮期血圧(mmHg),拡張期血圧(mmHg),血清総コレステロール値(mg/d l ),血清高比重リポ蛋白コレステロール値(mg/d l ),血清中性脂肪値(mg/d l ),血糖値(mg/d l ),血清尿酸値(mg/d l ),体脂肪率(%bw),飲酒量(point/30日),喫煙量(本/日),運動量(Mets・運動時間/30日)との関係について検討した.本研究の被験者は,福井県労働衛生センターにおいて1991年4月から1992年6月までに健康測定を実施した男性162名(40.6±13.1歳)および女性133名(41.3±11.1歳)である.本研究では, YMCA自転車エルゴメーターテストにてVo2max (男性平均33.2±8.3 m l /min/kg,女性平均27.4±7.1 m l /min/kg)を測定した.このテストでは,Vo2maxが3段階の負荷運動中の心拍数から推定される.それゆえに,本研究の被験者中,疲労困憊を訴えたものはなく,このことは,被験者の安全を確保するために,疫学的研究では不可欠である.単相関分析の結果,Vo2maxに対して男性では年齢(r=-0.223, p<0.01),収縮期血圧(r=-0.228, p<0.01),拡張期血圧(r=-0.239, p<0.01),体脂肪率(r=-0.230, p<0.01)がそれぞれ負の相関を,運動量(r=0.234, p<0.01)が正の相関を示した.一方,女性では年齢(r=-0.224, p<0.01),収縮期血圧(r=-0.222, p<0.01),拡張期血圧(r=-0.267, p<0.01),血清中性脂肪(r=-0.224, p<0.01),体脂肪率(r=-0.280, p<0.01)がそれぞれ負の相関を示した.また,体脂肪率,喫煙量,飲酒量,運動量,年齢の影響を除いた後,偏相関分析では,男性で,収縮期血圧(r=-0.185, p<0.05),拡張期血圧(r=-0.181, p<0.05),血清尿酸値(r=-0.182, p<0.05)がVo2maxと有意に相関していた.しかしながら,これらのファクターは互いに影響を及ぼしあうことが予想される.それ故に,私たちは重回帰分析(ステップワイズ)を施行したところ,以下の結果を得た.男性では,Vo2maxに対し有意な負の標準偏回帰係数を得たのは,大きい順に,年齢(r=-0.23215, p<0.01),体脂肪率(r=-0.19307, p<0.01),血清尿酸値(r=-0.16977, p<0.05),拡張期血圧(r=-0.16189, p<0.05),喫煙量(r=-0.13104)であった.また,唯一運動量(r=-0.18801, p<0.01)だけに,正の標準偏回帰係数を得た.女性では,体脂肪率(r=-0.19701, p<0.05),拡張期血圧(r=-0.16558),血清中性脂肪(r=0.12557)が独立変数として採択された.これらの知見は,Vo2maxが循環器疾患のリスクの状態を反映しうることを示唆するものであった.このVo2maxは,様々な労働者のライフスタイル改善の目安として役立てられるだろう.更に,Vo2maxの上昇が循環器疾患のリスクを軽減するかどうかについては,縦断的研究を必要とする.