DNS (Domain Name System)は現在のインターネットにおいて欠くことのできない名前解決システムとなっており,Webサービスやメールシステムなどの数多くのサービス・システムがDNSに依存している.そのため,DNSの障害は他のサービスやシステムにまで影響を及ぼすことが少なくなく,権威サーバの設定の妥当性や耐障害性を評価することはDNSに依存したサービスおよびシステムを安定運用する上で重要である.とりわけIPv6の導入に伴い,従来のIPv4のみの単純な委譲関係だけではなくトランスポートを考慮した複雑な委譲構造を考慮する必要がある.本論文では,トランスポートを考慮した名前解決における委譲に基づいたDNSの木構造データベースの探索過程をラベル付き有向グラフ構造(DNS探索グラフ)として表現する手法を導入し,世界的なIPv6運用試験イベント期間中およびその前後に計測したDNS探索グラフデータセットに対して,IPv4およびIPv6の異なるトランスポートによるAレコードおよびAAAAレコードの名前解決における探索経路の傾向分析を行う.これにより,IPv6アドレスを示すAAAAレコードの解決においても81%ものドメイン名でIPv4トランスポートが不可欠であり,また,世界的なIPv6運用試験において,AAAAレコードを持つドメイン名の数は増加したがIPv6トランスポートのみによりAAAAレコードを解決できるドメイン名の数は大きく変化しなかったことから,DNSの権威サーバのIPv6トランスポートへの対応が課題であることを示す.