本論の目的は、ロールシャッハ・テストを時間の観点から考察することである。反応解釈の基軸に時間が置かれることは「同時性」や「継時性」の概念を用いた辻(1997)の『ロールシャッハ検査法』以外に、日本ではこれまでほとんどなかったように思われる。本論では、辻の叙述を検証しながら、彼とは異なる時間観すなわち生命論的・生物学的時間の視点から、特に人間運動反応について一望する。静止、運動、持続、瞬間などの諸概念に照らすと、辻の解釈には、ゲシュタルト心理学が背景に持っている一般的な物理学的時間による箇所と、本論で言う生命論的・生物学的時間による箇所が混在していることが理解される。それらを個別的な生命論的時間によって基礎づけし直し、再解釈することによって、持続する理想的な人間運動反応を除いて、ロールシャッハ反応には瞬間的なものが少なくないことを明らかにするつもりである。