本論文は13歳の広汎性発達障害の男子に対する1年9ヶ月間のプレイセラピーの報告である。論文としての弱点は、3点ある。1つ目は、広汎性発達障害の子どもたちへの援助がトータルにいかにあるべきかを論じずに、「心理療法が必要か必要ではないか」といったきわめて狭い視点から論文が執筆されていることである。対人関係・コミュニケーションの援助および心理的な援助が重要なことは言うまでもない。しかし、それらは果たして「療法」なのだろうか。広汎性発達障害の人たちのかかえる困難の大きさを考えるときに、その生活へのトータルな理解と援助の重要性を考えるならば、「心理療法」云々はあまりにも視野が狭いように思われる。2つ目は、アスペルガーや広汎性発達障害の人たちについての従来の取り組みや諸研究が踏まえられていないことである。3つ目は、本論文のオリジナリティである。「心理療法の有効性を示した」というのがオリジナリティであるとは考えられないことは、1に述べた理由による。残念ながら、本論文は、論文としてのオリジナリティに欠ける事例報告と判断せざるを得ない。