酸無水物類はエポキシ樹脂の硬化剤の一つで, 眼や鼻などの粘膜に対する強い刺激性物質であり, 低濃度の曝露でもアレルギー性鼻炎や喘息を起こすことが知られている. 平成14年4月には, 日本産業衛生学会の許容濃度に関する委員会からメチルテトラヒドロ無水フタル酸を気道感作性物質1群に分類し, 許容濃度として50μg/m3が提案された. 本邦では弱電部門で酸無水物系硬化剤が大量に使用されており, 疫学調査によって健康障害の結果が報告されていることから, 酸無水物によるアレルギー性呼吸器症状を予防するために作業環境管理が可能かどうか検討を行った. 我々は平成12年4月からヘキサヒドロ無水フタル酸, メチルヘキサヒドロ無水フタル酸, メチルテトラヒドロ無水フタル酸の管理濃度を40μg/m3と自主的に定めて, 酸無水物系硬化剤を使用している2工場について作業環境測定を行い, その結果に基づいて作業環境改善を実施して良好な結果を得た. 今回の経験から, 酸無水物系硬化剤の作業環境管理は他の有害物と同様に発生源の囲い込み, 局所排気装置の設置とメンテナンス, 空気取り入れ口の設置, また硬化炉からの漏洩をなくすことによって可能であり, 作業場への汚染を十分に抑制できることが明らかになった.