塗装業務がアルコール性肝障害に及ぼす影響を調査する目的で, 大型機器製造関連の小規模事業所の男性労働者を対象に肝機能を検討した. 塗装業務内容は, 大型機器の金属洗浄, 塗装等であり, 作業環境濃度はしばしば高濃度に及んだ. 肝機能検査値検討の対象者は, 40歳以上の男性労働者1,157名で, 塗装専門職群は85名, 平均塗装業務年数は20.9±9.8年である. 飲酒しない者において, 塗装専門職群と非塗装群のglutamic-oxaloacetic transaminase (GOT), glutamic-pyruvic transaminase (GPT)は有意な差を認めなかったが, 週に数日飲酒する者では塗装専門職群のGOT, GPTは, 非塗装職群に比べ有意な上昇を示した. 肝障害に影響を与える因子の検討では, 肝炎既往歴はGOT, GPT, γ-glutamyl transpeptidase (γ-GTP)に強い影響を与え, 塗装業務, 飲酒頻度, 1日飲酒量, 肥満指数 (body mass index : BMI)はγ-GTPに影響を与えていた. さらに, 質問票を用いて肝炎に関する調査を実施した. 対象者は男性労働者206名 (18-67歳)であり, 塗装専門職群は134名, 平均塗装業務年数は16.8±10.4年である. 調査の結果, 肝炎既往歴のある者は塗装専門職群13名 (9.6%), 非塗装職群2名 (2.6%)であり, 塗装専門職群の13名のうち, 5名がC型肝炎, 4名がアルコール肝炎であった. また, 13名全員が飲酒習慣をもっていた. 今回の結果において, 塗装業務は飲酒習慣のない者の肝機能に対してほとんど影響を与えなかったが, 飲酒習慣のある者では飲酒による肝障害を強めることが示された.