振動工具使用による手腕振動曝露と体位平衡維持機能の障害との関連を明らかにするため106人の男性林業作業者について重心動揺測定,気導聴力検査と質問紙による使用工具の種類,チェンソー使用年数などの調査を行った.我が国では林野庁や労働省の通知や告示により1976年を境にチェンソーの振動加速度が3G以下のものでなければならなくなり,それ以前と比較して振動加速度が著しく低減した機種となった事実がある.従って,調査年次2000年において,チェンソー使用年数25年以上の群(使用年数25年以上群)とチェンソー使用年数24年以下の群(使用年数24年以下群)によって林業作業者を2群に分け検討した.使用年数25年以上群は使用年数24年以下群に比べて,外周面積(aENV),矩形面積(aREC)で表した重心動揺値や500,1,000,2,000,4,000,8,000Hzにおける聴力レベルの平均値はいずれも有意に高値であった.相関係数からは,4,000Hzにおける聴力レベル,チェンソー使用年数,年齢はaENVと有意な関係があることが示された.しかし,チェンソー使用年数は年齢と有意に相関しており,aENVに及ぼす年齢の影響を排除するために,全対象作業者を10歳間隔の年齢層(20~70歳代)に分け,使用年数25年以上群と使用年数24年以下群の同歳代間でaENVを比較した.各歳代において使用年数25年以上群のaENV平均値は使用年数24年以下群に比べて高値であり,特に40歳代では有意な差が認められた.更に,両群の作業者の年齢が一致する46~68歳の範囲に入る作業者について aENV平均値を比較すると,使用年数25年以上群は使用年数24年以下群に比べて有意に高値であった.チェンソー使用の作業者への影響を検討する場合,現場で受けた作業振動と騒音の負荷を乖離して検討することは難しいが,体位平衡維持機能の低下には,過去に曝露された激しい振動が関与している可能性が考えられた.