某アパレル企業のメンタルヘルスの現状と対策,およびその効果:豊島裕子ほか.東京慈恵会医科大学 環境保健医学講座―アパレル産業は,仕事で独特な芸術性を要求され,残業時間が長く,雇用状態が不安定で労働者の負荷となる要因が多く,他の業種と比較して職業性ストレスが多い産業ではないかと考えている.そこで,男性561人,女性387人からなる某アパレル企業において,メンタルヘルスに関して産業医面談を受けた66人の社員を分析して,報告する.産業医面談を受けた社員は,他の社員に比して,労働時間が長く,雇用条件が不良で,より芸術性を要求される職種の人たちであった.アパレル企業では,“Specialty store retailer of Private-label Apparel(SPA)”という業務システムを取り入れている.SPAでは,社内ブランド同士の競争が激しく,ブランド内では1週間周期で新商品の開発,縫製,出荷をこなさなければならず,労働者のストレス,疲労は高まる.以上より,アパレル企業は極めてストレスの多い職場と結論した.ストレスの多いアパレル企業のメンタルヘルス健康管理では,産業医が面談で疑わしいと判断した社員は速やかに精神科に紹介すること,また産業医自身も問題を抱えた社員に対しては頻回に面談を行うこと,職長は部下の休暇,作業能率,E-メール送信時のマナーなどに気を配ることが重要と考える.病欠していた社員が復職する際は,短時間勤務から徐々に勤務時間を延ばしていく「慣らし出社」が,円滑な復職に有効であった.(産衛誌2005; 47: 70-78)