短時間で行う積極的傾聴研修の効果―2時間30分で実施する管理監督者研修の検討―:巽あさみほか.浜松医科大学医学部看護学科― 今回,我々は従業員1,400人の総合化学業A事業所の管理監督者に対し,積極的傾聴を取り入れたメンタルヘルス研修を実施した. 目的: 本研究の目的は研修時間2時間30分での傾聴研修を実施し,その効果について明らかにすることである. 対象と方法: 対象はA事業所における管理監督者全員とした.メンタルヘルス研修は2007年5月から2008年3月に21回,299人を対象に実施し,調査は2007年5月から2008年9月に実施した.研修は午後2時から事業所内の会議室で実施した.研修内容は,メンタルヘルス対策としての傾聴の重要性・意義と積極的傾聴の研修スケジュールを説明し,その後実際に役割練習と振り返りをそれぞれ2回ずつ実施した.まとめとして模造紙に傾聴についての気づきを記載してグループ毎に発表した.発表内容について講師がコメントを加え,最後に傾聴の要点をまとめた資料を配布し説明した.研修の評価指標として,研修終了時のアンケート,研修1ヶ月後,3ヶ月後,6ヶ月後の傾聴法実施状況に関するアンケートを行い,また研修前,研修1ヶ月後,研修3ヶ月後,研修6ヶ月後に三島らの開発したALAS(Active Listening Attitude Scale「聴き方」,「傾聴の態度」の2尺度からから構成,以下 ALAS)を使用して評価した. 結果および考察: 当日の研修終了時アンケートの結果(212人)では,研修時間はちょうどよかったものが60%で,短いと回答したものが30.1%いた.研修の難易度は適切が77.8%,研修内容を実践しようと思うものが79.7%,全体の満足度は85.9%と高い結果であった.6ヶ月後のアンケート(145人)で研修内容を覚えているものは81.4%,研修内容を実践しているものは49.7%であり,部下との業務以外の対話が増えた,部下との業務上の連絡や指示等が円滑になったなどの回答が増加していた.ALASの回答は研修前から6ヶ月後まで4回全てのアンケートに回答した84人について分析した.「傾聴の態度」については有意差は認められなかったが研修前より得点は高くなり,「聴き方」については有意に得点が上昇していた.また研修前と6ヶ月後の2回回答者125人に対象を拡大して分析した場合も同様の結果であった.これらの結果はALASを使用した既報告とほぼ同様であった.このことから2時間30分という短時間であっても傾聴研修の効果が充分あることが示唆された. (産衛誌2010; 52: 81-91)