多層カーボンナノチューブ製造工場における気中粒子の測定及び炭素分析 1―袋詰め作業―:鷹屋光俊ほか.独立行政法人労働安全衛生総合研究所環境計測管理研究グループ―目的: 近年急速に発展しているナノテクノロジー産業で用いられるナノ材料について,労働者の曝露の実態を把握することを目的に研究を行った. 対象と方法: 本研究では,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の製造工場を調査対象とした.MWCNTの合成は,密閉された製造装置で行われるため,曝露の可能性が高いと予想された袋詰め工程を調査対象とした.袋詰め工程は,労働者が袋に詰める手動の工程と自動充填機を用いた自動工程の2つの方法で行われていたため,その2つの工程の比較も行った.調査方法は,個人サンプラーによる曝露濃度測定と粒子数と粒径分布をリアルタイムモニタリングする測定器を作業場所近傍に設置し,これと同じ場所で粉じんの質量濃度を測定した.粉じんの質量濃度は,インパクター式分粒装置を用い,吸入性粉じん濃度および,捕集板上に捕集された4μm以上の粒子も含む濃度(以下大粒径も含む粉じんの濃度を粉じん濃度と呼ぶ)を測定した.リアルタイムモニタリングには,測定対象の粒子径に応じて以下に示す装置を使用した.ナノスケール粒子測定には,走査モビリティ粒子サイザー(SMPS)を,サブミクロン・ミクロンスケール粒子の測定に光散乱式粒子カウンター(OPC)を使用した.この他,捕集した粒子中のMWCNT量を,元素状/有機炭素モニター(EC/OC)を用いて測定を試みた. 結果: 労働環境空気中の粒子濃度は手動・自動の作業場で大差なく,双方とも総粉じん濃度で0.24 mg/m3だったが,個人サンプラーを用いて測定した作業者の曝露濃度は,手動工程が2.39/0.39 mg/m3(粉じん/吸入性),自動が0.29/0.08 mg/m3(粉じん/吸入性),であった.時系列分析の結果,手動工程でホッパーから一時取り出し容器に移す際とその容器から出荷用の袋に手動で移す際に,ミクロン・サブミクロン径の粒子の飛散が観測された.一方で作業に関連したナノスケールの粒子の発生は観測されなかった. 結論: 測定の結果,手動作業による袋詰めは,曝露のリスクが高い所謂ホットスポットであることと,自動化の曝露防止改善が優れていることが測定によって実証された. (産衛誌2010; 52: 182-188)