トナー粒子における生体影響の解説と労働衛生管理への対応―継続的文献調査による検討―:森本泰夫ほか.産業医科大学産業生態科学研究所―目的 :トナーの加熱印字(プリントアウト)を行う際に超微細粒子が発生したことや粘膜刺激症状を認めたことから,トナーの生体影響に関する情報調査が必要となった. 方法 :トナー粒子だけでなく,印字から発生が予想される付加的な化学物質も含め,健康影響に関する文献を調査し,トナーの生体影響因子や影響予測因子を推測した.本調査は,2回目の調査であり,1回目の調査との整合性を検討し,新たな生体影響調査報告を以下のように要約した. 結果 :1)トナー製造業やコピー従事者における4件の断面調査では,明らかな肺への影響を認めなかった.2)印字における超微細粒子は,定着装置の高温,トナーの充填率が高いことにより発生が多く,印字休止中でも発生を認めた.3)高感度c-reactive protein,心拍間変動係数は,微細粒子の曝露指標だけでなく心血管系疾患の病態を反映するマーカー,8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)は,溶接ヒュームの急性曝露マーカー,vasular endothelial growth factor(VEGF)やCA15-3は,肺線維症の感度や特異度の高いマーカーになりうることが報告されていた.4)生体影響を反映するナノ粒子の物理化学的特性として,表面積,個数濃度,重量濃度,結晶構造など様々な特性が検討されているが,決定的なものはない. 結論 :以上の結果,微細・超微細粒子の曝露だけでなく,心・肺疾患の病態を反映するバイオマーカー候補が報告されていること,トナーによる超微細粒子の発生には,定着以外の要因も関与することが認められた.本追加調査は,トナーの労働衛生や室内環境管理を行うのに十分な情報とはいえない.しかし,このような調査は,情報を整理,再検討し,健康管理の方向性を修正に有用と考えられ,今後も行う予定である. (産衛誌2010; 52: 201-208)