介護老人福祉施設に勤務する介護職員のいじめ,ハラスメントとストレス反応:谷口敏代ほか.岡山県立大学保健福祉学部保健福祉学科―目的: 本研究は地方都市にある介護老人福祉施設に勤務する介護職員について,いじめ,ハラスメントの実態を明らかにし,それらが心身の不調(ストレス反応)を起こすという仮説を検証することを目的とした. 方法: A県のB地区にある介護老人福祉35施設の医師を除く全従業員を対象とし,2009年8–9月,自己記入式質問紙による横断調査を行った.調査内容は,職業性ストレス簡易調査票のストレス反応29項目,個人的ないじめ,仕事上でのいじめ,性的ハラスメントで構成される日本語版Negative Acts Questionnaire(NAQ)12項目であった.調査項目のストレス反応・NAQに欠損値のない1,233名(有効回答率63.9%)のうち,介護職員897名を分析対象とした.心理的ストレス反応(活気の低下,イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感)と身体的ストレス反応(身体愁訴)が,いじめの体験の有無によって異なるかを t 検定や分散分析を用いて検定した. 結果: 男女ともに半数以上が仕事上のいじめを構成する「必要な情報を与えない人がいて仕事が困難になる」を体験していた.また,男女とも4割程度が個人的ないじめを構成している「あなたについての陰口,または,うわさ」を体験していた.女性介護職員においては,個人的ないじめを受けた体験のある人で,有意に( p <0.05)活気が低く,疲労が高かった.また,仕事上のいじめを体験した人の方がそうでない人に比べ有意に( p <0.05)うつ気分が高く,性的ハラスメントを体験した人の方がそうでない人に比べ有意に( p <0.05)不安感が高かった.一方,男性介護職員ではいじめを体験している人がそうでない人に比べ有意に( p <0.05)活気が高かった. 結論: 女性介護職員において,職場のいじめ,ハラスメントは精神的ストレス反応の一部と正の関連を示し,仮説と矛盾しなかった.一方,男性介護職員ではいじめと活気との正の関連がみられた.職場のメンタルヘルス対策においては性差に考慮する必要性が示唆された.