目的: 新人期の産業看護職によるメンタルヘルス対策に関する活動の実施状況と困難を感じた経験,知識・技術の保有感の特徴と今後の学習課題を明らかにして,今後の新人期の産業看護職に対する,メンタルヘルスに関する教育研修方策を検討するための示唆を得ることを目的とした. 方法: 日本産業衛生学会に所属する産業看護職を対象に自記式質問紙調査を行った.今回は,回答者のうち,企業所属で担当事業場がある産業看護職を主な分析対象とした.メンタルヘルス活動36項目の困難に関してクラスター分析を行い,カテゴリーに分類した.経験年数5年以下(以下,新人期とする)と5年より上(以下,中堅期以降とする)の2群に分け,それぞれの基本情報,メンタルヘルス活動の実施状況,困難,知識・技術の保有感,学習環境,自己研鑽等を算出し,新人期と中堅期以降の産業看護職との比較を行った.また,変数間の関連を検討するため,Mann-WhitneyのU検定およびχ2検定を行った. 結果・考察: 有効回答数は682名であり,そのうち,企業所属で担当事業場がある,新人期の産業看護職80名,中堅期以降の産業看護職369名を分析対象とした.1) 新人期・中堅期以降ともに,大多数の産業看護職がメンタルヘルス活動に携わっていた.中堅期以降の産業看護職と比較して,より多くの新人期の産業看護職が,[メンタルヘルスに関する個別相談のアセスメントと対応]に困難を抱えていた.また,メンタルヘルス活動に関する知識や技術について,中堅期以降の産業看護職と比較すると,ほぼ全ての活動項目で不足を感じている新人期の産業看護職が多かった.2) 新人期の産業看護職は,[労働者・管理監督者等との信頼関係の構築と情報収集],[メンタルヘルスに関する個別相談のアセスメントと対応]を,他の活動と比べて実施している割合が高かったが,そのための知識・技術を有している割合は他の活動と差がほとんどなく,結果としてそれらの活動に関する知識・技術不足を感じながら実施している人が多い状況が示唆された.今後,新人期の産業看護職への育成研修として,まず,これらのメンタルヘルスケアの基礎となる活動に関する知識・技術を確認・育成する教育から行っていく必要があると考えられた.3) 他企業の産業看護職から助言・サポートを得られる等の学習環境を有しており,また,関連雑誌を購読している産業看護職の方が,[復職支援と事業場内・外の関係者との連携]に関して,過去一年間に困難を感じた経験が有意に少なかった.また,研究実施や学会発表等の自己研鑽をしている産業看護職の方が,[対応が困難なケースへの個別相談対応]に困難を感じた経験が少ないことが示された.