山地の斜面発達と植生構造との関係性を明らかにするために,梓川上流部のブナ林分布上限域を対象として,ブナ林冠木の分布の特徴を検討した.ブナの出現頻度は,斜面方位では南向き成分を持つ斜面で高く,地形的には尾根や山腹斜面上部を占める平滑斜面よりも,遷急線をはさんでその下方に位置する開析斜面において相対的に大きかった.南向き斜面にブナが多いのは,方位による気候条件の違いだけでなく,地質構造を反映して調査地の一部で斜面の開析が北向き斜面より南向き斜面に卓越することも関係している.平滑斜面と開析斜面とでブナの出現頻度が異なる原因の一部は土壌条件の違いであるが,調査地域全体で常にこの違いが認められるわけではなかった.林分構造に着目すると,緩傾斜の平滑斜面と急傾斜の開析斜面とでギャップ形成様式が異なることが,両斜面間でのブナの優占度の違いに関係していることが示唆される.