矢作川下流の西三河平野において地形面を分類し,それらの形成過程,発達史を考察し,周辺地域との対比をおこなつた.本地域の地形面を,高位から順に藤岡面 (200~70m)・三好面 (130~35m)・挙母面 (13O~20)・碧海面 (80~5m)・越戸面 (50~35m) の5面および沖積面に分類した(第2, 4・5図)・これらのうち,はじめの4面は矢作川右岸に広く,また藤岡面以外では古い面ほど縦断面勾配は急で,古い面の末端はその下の新しい面下に埋没し,後者は前者中に入りくんでいる.越戸面は矢作川ぞいに局部的に分布するにすぎない. 各地形面の構成物質の調査からみると(第3~5図,第1表,写真1~7), 藤岡面は矢田川累層の堆積面であり,その中でもおもに礫からなるところでは平坦な背面を保持し,砂・シルトなどからなるところでは小起伏面をなしている.三好~碧海の3面は,古矢作川よつて堆積された三好層・挙母層・碧海層の堆積面である.そして,これらの堆積物は一般に上流では氾濫原ないし扇状地状堆積物として,下流では三角州ないし浅海性堆積物として形成された.この3面の形成時には海面は今よりも高く,三好面の場合には明らかでないが,挙母面では標高80m, 碧海面では20mの高さに当時の海面が推定される.越戸面は,下流部で沖積層下の礫層につづく河成段丘で,沖積層堆積前の低位海面に関係して形成された.以上の地形面を名古屋・東三河その他の地域と対比すると第2表のようになる.挙母面形成時までの地形形成過程は場所によつてかなり異なるが,碧海面の形成以後は,全地域がほとんど同様な発達過程をたどつたようである.