この研究は長良川上流部,岐阜県郡上郡を例とし,近畿・中部の山村に主として分布する人夫日雇(林業を除く)の多い地域の性格を明らかにし,その生ずるにいたつた歴史的原因と地域的条件を説明した. 郡上郡で最近の人夫日雇兼業増加の直接的原因となつたのは,伊勢湾台風の結果長良川の災害復旧工事が急増したことによる.それは主として地元中小請負業者によつて遂行され,それを通じて外部の大業者の場合にみられぬ影響が農村に及ぶ.業者自身が農家である場合が多いのみならず,それが集める代人,石工,土工は,ほとんど農民だからである. 他の地域,たとえば平野や都市周辺でも土木工事は盛んであるが,この種の兼業は少い.それ故この種の山村発生の地域的条件がなければならない.その1つは全国の山村中でも最も著しい農業の零細性であり,さらに農業技術の改良,養蚕,製炭,出稼の減少などにより遊離した労働力が,農業の集約化や有利な兼業によつて吸収されなかつたことによる. 影響は地域的には,土木工事のある長良川とその主な支流に沿つてあらわれている.しかし量の面ではともかく,質の面ではこれら階層の収入や生活向上の程度は,他に劣る.