各種の溶接構造用高張力鋼に, 室温ないし600℃の範囲で引張予歪を与えてから, 残留延性試験と切欠靱性試験を行なってキルド軟鋼の成績と比較した。 3種の50kg/mm2級高張力鋼 [YND (Q&T) ・HT50 (Q&T) ・HT50 (N)] と, 80kg/mm2級高張力鋼1種 [WT80 (Q&T)] とを用いて行なった残留延性試験の結果によると, キルド軟鋼に比べてこれらの高張力鋼では高温予歪による残留延性の低下は一般に少ないことが認められた。とくに200℃での予歪処理による悪影響は明らかに軽微であった。またキルド軟鋼をも含めて, この高温予歪処理による悪影響はあまり大きなものではなく, 残留延性を室温予歪よりも顕著に損なうようなことはなかった。 以上の鋼種にさらに80kg/mm2級高張力鋼2種 [K-O (Q&T) ・K-O (N)] を加えて, vシャルピー衝撃試験により切欠靱性試験を行なった。その結果によれば悪影響のもっともはなはだしい処理温度は, キルド軟鋼が200℃であったのに対し, 供試鋼ではすべて300℃であった。またこの危険温度での予歪処理によって遷移温度 (Tr15とTrs) が示す上昇度は, 全供試鋼ともキルド軟鋼の場合の数分の1程度で脆化は遙かに少なかった。したがって高温予歪の悪影響がきわめて著しかったキルド軟鋼に比べて, 供試高張力鋼はすべてかなり安全側にあるものと推定される。高温予歪が切欠靭性に及ぼすその他の影響に関しては, キルド軟鋼のときと同様な結果が得られた。