先行研究において,我々は,入力文の表層の依存構造に依らずに,意味内容の比較・参照を可能にする意味表現方式及び意味の位置付けに基づく意味解釈手法を提案してきた.本研究の目的は,我々が提案してきた意味表現方式,意味解釈手法を用いた対話システムを構築し,対話データによってシステムを評価することで,この意味表現方式及び意味解釈手法の有用性を確かめることである.自然言語では,同一の意味を伝える際にも様々な表現を用いることができるため,対話システムが受理しなければならない表現は非常に多様なものになってしまう.しかし,従来開発されてきた意味表現では,異なる依存構造を持つ同義文が入力された場合に,異なる意味表現が生成されるため,このような意味表現間で意味内容の比較・参照を行おうとすると,意味表現同士を比較するための個別の規則が必要になる.このような規則は,意味表現の組み合わせごとに必要になるため,予めこれを用意しておくことは現実的ではない.我々が提案してきた意味表現方式及び意味解釈手法では,表層表現に対応する個別の規則を用意する必要がない.本論文では,この意味表現方式及び意味解釈手法を用いて,浜松市周辺のホテル検索・観光名所検索を主タスクとする対話システムを構築し,その評価を行った.評価実験では,Wizard of Oz法によって収集したホテル検索・観光名所検索を主タスクとする対話データを用いて,構築したシステムが適切な応答を返すことができるかどうかを調査した.また,提案した意味解釈手法の一部を用いない場合に,同様に適切な応答が可能かどうかについても調査した.これにより,本論文で構築した対話システムが適切に応答可能であること,更に,それが我々の提案した意味解釈手法に基づく効果であることを確認した.