本稿では,最近提案された証拠理論における条件則の一般化について論じ,不確実な信念を条件とする新たな一般化条件則を提案する.また,既存の証拠推論が本論文で提案する一般化条件則によって解釈可能であることを示す.最近キマラらによって提案された条件則は,以下の3つの要件を満足する.a)条件付基本確率の焦点要素は条件となる集合の部分集合に限られる,b)空集合でない任意の条件に対して条件付基本確率は定義される,c)条件が全体集合である条件付基本確率は条件なしの基本確率に等しい.これらの3つの要件すべてを満足する既存の条件則は存在しないが,証拠理論が人間の主観における不確実性を表現するとすれば,これらの要件は自然で妥当な要件と考えられる.また,条件に信頼度を導入することで,a)の要件を緩和する一般化条件則も提案されている.本論文では,まず,キマラらの一般化条件則をさらに一般化する.本稿で提案する一般化条件則は,条件として基本確率の形で与えられる信念を用いる.同様な条件則は Ichihashi らや Dubois らによっても提案されているが,これらの一般化条件則はベイズ規則およびジェフリー規則の一般化であるため上記の要件 b)を満たさない.本稿で提案する条件則は a)の要件を緩和したのみで, b)と c)の要件を共に満たす.さらに,本論文では既存の証拠推論と一般化条件則の関係について論じる.証拠推論はベイズ推論の拡張として解釈することができるが,新たに,本稿では Smets らの移転可能信念モデル(Transferable Belief Model)における証拠の結合として解釈できること,および本稿で提案する一般化条件則によって解釈可能であることを示す.